超軽量焚き火台『UKIBI』話 後編|全ては「もったいない!」から始まった。製作者の吉川さんインタビュー
圧倒的な軽さと携行性で人気の『超軽量焚き火台 UKIBI』。前回は使用シーンとしておすすめの「川旅」で実際に使用し、その相性の良さを確認することができました。後編の今回は、製作者の吉川浩樹さんがどんな思いでUKIBIを作ったのか、自身の自然観も含めてその背景に迫ってみようと思います。インタビュアーは、前回川旅ガイドをしてくれたユーコンカワイさん。製作者と使用者、それぞれの“現場目線”での思いをご覧ください!
なお、細かな商品の概要などに関しては、商品ページの方からどうぞ。
UKIBIは“火”そのものを楽しむための「旅の道具」だ
ユーコンカワイ(以下・ユ):吉川さん、最初にこんなことを言うのもなんなんですが、僕、焚き火台ってあんまり好きじゃなかったんですよ(笑)
吉川浩樹(以下・吉):いきなりですね(笑) でもその気持ち、すごくよくわかります。
ユ:最近の焚き火台はお洒落なものが多く出ているけど、なんだか「焚き火台自体」の存在が主張しすぎちゃっている感じがあって・・・。僕は「火そのもの」に集中したいし、なんだったら不便を楽しみたいので焚き火台に余計な要素はいらなくて。
吉:ユーコンさんが影響を受けた、作家でカヌーイストの野田知佑さんも同じようなこと言っていましたね。僕も野田さんの影響をモロに受けているので、全く同じ思いです。UKIBIは趣向品としてのキャンプ道具というより、“旅の道具”として実用的なものを作ろうと思ったのが最初でした。
ユ:UKIBIの第一印象は、「お、これは“わかってる人”が作ってるな」でした(笑) 軽量で持ち運びが容易なのはもちろんですが、何より気に入ってるのは、焚き火してる時の“存在感の薄さ”です。
吉:ありがとうございます。存在感が薄いのに褒められるって、このUKIBIくらいでしょうね(笑)
▲焚き火台の存在感がぐっと薄いため、まるで焚き火が浮いているかのような感覚に
ユ:焚き火台が全く主張しないから、まるで直火でやってるかのような感覚になりますよね。夜なんて特に。暗闇の中に火だけが浮かんで、まさに「浮火」ですよ。これなら心の底から火だけを楽しめます。しかも地面との隙間に風が通ることで直火よりも燃焼効率がいい。これなら多分野田さんも納得してくれると思いますよ(笑)
吉:だったら嬉しいなあ(笑) まず軽量さはパックラフトやマウンテンバイク(以下MTB)とかいろんな遊びに有効に働くし、そんな遊びと合う焚火台が僕も欲しかったんです。
▲焚き火台が闇に紛れて、まるで焚き火が浮かんでいるかのよう
ユ:なかなかそういうコンセプトの焚き火台はなかったですよね。できるだけ直火に近い焚き火台が欲しいけど、持っていくのに邪魔になる。このラインですよね。
吉:そうそう、使うか使わないかのライン。予備や非常用としてもバックパックに忍ばせられるから、ちょっとここで焚き火しようって時にサッと出せます。
▲荷物を詰め込んだバックパックに、するりと入るほどスリムな設計
ユ:構造もシンプルだから現場で簡単に直せるのもいい。アウトドアギアには必須の要素ですね。▲パーツは2つだけ
吉:燃焼効率がいいから、しっかり燃え切って燃えカスが少ないのもいいですよ。下にアルミホイル敷けば輻射熱でさらに暖かいし、最後は燃えカスをアルミホイルに包んで持ち帰れます。
▲綺麗に燃えきるので、後始末も楽ちん
ユ:結構マニア向けのアイテムかなって思っていましたが、何気に普通のキャンパーさん達にも好評のようですね。
吉:そうなんですか?
ユ:やっぱりキャンプ道具自体がいろんなものが出過ぎちゃっているのか、レビュー見ると、みんなキラキラ&ガチャガチャした道具に疲れちゃっているみたいです(笑) 特にソロキャンの人はシンプルで素朴なものを求める人が増えてきているみたいですね。子供用の最初の焚き火台として購入する人もいるそうです。
吉:キャンプ道具が便利になり過ぎていて、アウトドア本来の「不便さを楽しむ」っていうところに原点回帰が始まっているのかもですね。
人力移動の旅に魅せられてから自然観が変わった
ユ:吉川さんの肩書きは「自然車研究所所長」ってなっていますね。
吉:そうです、自転車じゃなくて自然車。やっぱり街や整備されたところじゃなく、自然の中で遊ぼうよ、という思いがまずありました。MTBやパックラフトでの旅が多いですが、他にもトレランやフリークライミング、雪山登山やらB.Cスキーもやっていました。
ユ:幅広いですね!そもそもアウトドアを始めるようになったきっかけはなんだったんですか?
吉:最初はバイク乗りだったんですよ。峠とか攻めていましたね。女の子にモテるかなと思って(笑) その後にパリダカに憧れてオフロードバイクをやるようになったんですけど、日本の林道って自由に走れないところが多くて、なんか違うなと。で、そのころに、たまたま野田知佑さんの「日本の川を旅する」って本に出会って衝撃を受けて。
ユ:めっちゃわかります(笑) 僕ら世代でアウトドアをやっている人は、必ず野田さんの影響受けていますよね。
吉:エンジン付きじゃない、人力での旅の世界に魅了されましたね。普通ならユーコンさんみたいにカヌーやパックラフトで川旅を始めるところですが、僕は家族が自転車屋さんだったので、まずはMTBで旅することから始めたんです。
ユ:なるほど。人力旅って、それこそ不便で時間もかかるけど、人力じゃないと味わえない絶対的な快感がありますよね。
吉:ほんとそうです。今ではパックラフトにMTB乗せて旅していますよ。こういう形で、川とトレイルを結んで旅している人は僕ぐらいなもんでしょうね(笑)
▲パックラフトもMTBも楽しむ、吉川さんの川旅スタイル
ユ:人力旅をするようになって、自然との向き合い方や感じ方は変わりましたか?
吉:オートバイと違って、音も匂いもなく静かなのが良くて、より自然を感じられるようになりました。そこから焚き火の魅力にもはまっていきましたね。
もったいない!から始まった「廃棄スポーク」の活用
ユ:UKIBIはMTBの車輪に使う「スポーク」の廃材を使って作られているのが特徴ですが、そもそもなぜスポークを使って焚き火台を作ろうと思ったんですか?
吉:以前MTBの余っていた部品をオークションサイトで売ったことがあったんですよ。でもスポークだけが全然売れなくて。それもそのはずで、今はホイールの基準サイズが急に変わったり、そもそも自分でホイールを組む人がいなくなっていたからなんです。個人で自転車屋さんをやっているところでは、同じように大量のスポークが残ってしまう状況だったんです。
ユ:なるほど。余ってしまったスポークはその後どうなるんですか?
吉:もう鉄屑になるしかないですね。他に使い道がないですから。
ユ:それはもったいない。時代的にも合ってないですね。鉄屑にするにしても余計なお金やエネルギーも必要だし。それで焚き火台を作り出したのですか?
吉:最初は自分用に固形燃料用の五徳を作っていました。その後は、コーヒードリッパーを作って、ウルトラライトな登山やMTBトレイルツーリング楽しんでいましたよ。
ユ:それはそれでいいですね!普通に欲しいです(笑)
▲『UKIBI』と同じく、スポークを使って作られたコーヒードリッパー『雪渓』
吉:焚き火台を作り出したのは、スポークを使い出して7年目の時ですね。テーマは「徹底的にMTBの廃材で作ってやろう」です。試作の1号機はシフトレバーのエンドキャップや、ブレーキホースのオリーブ、シフトチェンジ用のワイヤーなんかを使っていました。
ユ:やはり、いきなりUKIBIが完成したわけじゃなく、いろんな試行錯誤があったんですね。
吉:そうなんです。2号機はワイヤーじゃなくして、クランクのギアを止めるネジで固定したりして。それらのテストを経て、3号機でようやく今の形に行きつきました。余計なものはなくなり、シンプルになることで理想系に近づきました。
▲「MTBの廃材を利用する」というこだわりが詰まった初号機(左)と2号機(右)
ユ:やっぱり行き着くのはシンプルさですよね。現場でもテストしたんですか?
吉:何度もしました。どこまでの重量のものを乗せられるかとか、サイズも色々作りました。最初はLサイズもあったんです。キャンプ場とかで売っている薪はフルサイズ(約35cm以上)だから、大きいものは要望ありました。
ユ:旅だと流木だからフルサイズじゃなくてもいいですからね。ソロだとフルサイズの薪じゃ大きいし。Newieさんでは、珍しくミニサイズの薪(17cm)が出てるから、セットで買うとちょうど良さそうですね。
多様なシーンで活躍するUKIBI
ユ:UKIBIは軽量だからいろんな使い方ができそうですよね。何か変わった場所で使っている人とかっていたりしますか?
吉:冬場のクライミングで使う人がいました。焚き火で指先を温めたいけど、岩で直火すると黒くなっちゃうし、重く嵩張る焚き火台は持って上がれないとのことで。他にも洞窟探検の人からも「これは使える」と言われたことがあります。
ユ:今まで持っていけなかった場所に持っていけるってのは、やっぱりメリットですよね。
▲軽量だから、ちょっと火の場所を移動させるのも簡単
ユ:ほんと、使う人のアイデア次第でいろんなシーンで使えそう。そういえば吉川さんも、流木で筏作ってUKIBIを川に浮かべていましたね(笑)
▲名前の通り、水に浮くほど軽い
吉:インパクトのある絵が欲しくて(笑) あれを夜にやったら逆さ焚き火とかできないかなーって。鵜飼みたいな感じで。何台か川に浮かべたら綺麗だと思うんですよね。
ユ:それいいですね!そういう無駄な行為こそ遊び人の醍醐味です(笑) それいつかやりましょう!
吉:ぜひ!
ユ:今日は色々とお話しいただいてありがとうございました。続きはまた川原でやりましょう(笑) もちろん焚き火を囲んで。
吉:もちろん!こちらこそ今日はありがとうございました。
UKIBIがあれば、焚き火はもっとカジュアルに楽しめる
いかがでしたか?アウトドアの現場で本気で遊んできたお二人のクロストーク、面白いお話がいっぱい聞けました。トーク終了後、お二人は「もっと焚き火を気軽に楽しんで欲しい。軽装で、トートバック一つ持って川原に行くみたいな。ピクニックにでも行くような感じでね」ともおっしゃっていました。
焚き火自体のハードルは決して高くなく、川原に行って焚き火して、ウインナーやマシュマロを焼いたり、ぼーっとしたり本読んだりでも全然オッケー。自然に触れるためのアイテムとして、ぜひこのUKIBIを活用してみてくださいね!
ユーコンカワイ